ヤキタテドットコム(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 

私は驚愕のシーンを目撃した。

18時、定刻どおりに会社を出て、気分よく向かったパン屋だったのに。

閉店が近い店内には、仕事を終えて帰路につく女性が多いが、この事実を知るのは私だけのようだ。

身長155センチくらい、髪の毛は腰に届くほどに長い。体はふくよかで顔はまあ美人の方に入るだろう。

隣には、小学校高学年くらいの女の子が立っている。母親(だろうか)に比べ、細い。母親が手の甲を使ってブレッド、バゲットをさわりまくっている。なにかつぶやいている。それを娘(だろうか)が書き取ってるようだ。

「手の甲で触れば、きたなくないわ、迷惑かけないわ、あたたかいパンをたべたいのだもの」

とでも言いたいのだろうか。私はビジネスマンのひとりとして非常なる憤りを覚えた。

こいつが触れた商品は、衛生上の問題が発生し、それがロスになり、損失につながるのである。

この「企業クライシス」を店員に伝えようと決意した。

レジには長い列、全員がお客さんの対応に回っているようで、なかなか話しかけられない。

仕方がないので、とりあえず今日は観察し、事実を把握し、後日メールで連絡してみようと思った。

娘はいったい何をメモしているのだろうか。

私はパンを選びながら(というか選ぶふりをして)この親子(だろうか)に近づいてみた。

なにげなくメモを見ようと試みるも、変質者扱いされるのが怖いのであきらめた。

(まちがいなく、今、監視カメラに写る自分の方もあやしいのだが)

ということは、おかしい。この事実を誰かがみているのではないか。

なぜ、この手の甲をパンにつけまくっている事実を問題視しないのだろうか。とまたひとり憤慨した。

妻にメールした帰宅時間が迫っていたので、とりあえずレジに並ぶことにした。

隣のレジの列に、あの2人が。母親の右手の甲になにか、青い物体が付いている。

よくみると、それは液晶画面つきで、「0000℃」という表示があった。あれは何だ!

入浴中も、この出来事が頭から離れない。

いつものように、ノートPCを立ち上げてネットにつなぐ。

パン好きの私は、グーグルアラートに「パン、ブレッド、バゲット、ベーグル」などと登録している。

入ってきたアラートメールに「ヤキタテドットコム」とあり、「池袋の●●ベーカリー、18時30分、ヤキタテより時間経過の模様」と書いてある。

クリックして開いたサイト、ブラウザの右横にあの母親の写真!
 
 
 

 ヤキタテドットコム(ショートショート、極短小説)
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

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