「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
私をチラリと見るのはなぜだ。
何もできやしないのに。
さきほどからやっと事情がつかめてきた。
あなたは彼氏から逃げたいのだね。
そこでこちらにSOSを出しているのだろう。
普通じゃないよ、そのドツキ具合。
ここは通勤電車なのだよ。でもなぜ笑顔なの?
新宿から混んできたね。これはチャンス。
どさくさにまぎれて離れてみたらどう。
そこのおじさんの脇から、するりとぬけてごらん。
そう、その調子。
彼氏がちょっと人のスポーツ新聞に気をとられているスキに。
今だ!
ああなんで動くの、おちびさん。
彼女が抜ける隙間がなくなったじゃない。
さて、どうしよう。
あの彼氏は間違いなく彼女をドツイている。
世に言うあれだ、なんだっけ、アルファベット2文字。
えーとUV、BV,OV、VD、あDVか。DVだ。
半端じゃないよあれ。
おなかをグーでやってるじゃん。
で、なんであなたは笑っているの?なんで2人とも笑顔なの?
で、こっち見るときだけSOS顔するのやめてよ。
よーし、こうなったらやるしかない。
「あの2人、へんじゃないすか。なんかさっきからボコボコボコボコやってるんですけど、半端じゃないんですよね。渋谷駅からずっとなんですよ。きっとDVなカップルなんですよ。社内迷惑行為とかで、訴えられないですかね。え?私ですか?私は何もできないですよ、とんでもないドツクなんて」
いろいろ迷走している間に、電車は池袋についた。
大勢の乗客が降り、それより多い帰宅の人が乗ってくる。
あ、あのカップルも降りるようだ。
だから彼氏、強引なんだって。
よし、あの係員に、と「すみません」と声をかける。
この彼女、降りながら「ずっとキモイ人がこっちみてた」と係員へ。
彼氏「なんだとお」。係員「あなた、ちょっと降りて」
あのカップルのドツキはプレイだったようだ。
みうらじゅんが言っていた。
なんでも「プレイ」にすればできるって。
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
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