「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
外出まであと10分と迫りながら、
客先への報告書の修正・印刷に追われていたワタシのデスクは、
封筒とプリントと名刺でひっくり返っていた。
「今日、やっぱり休みます」
という事務員の1本のメールに気付かず、のうのうとランチに行っていたせいだ。
「やっぱり」っていったい何?
まったく、とつぶやいたとき、「トゥーツゥー」と内線電話が鳴った。
「はい、山根です」
「うふふ。」「ガチャンッ」
んだよ全く。誰だよ。ちょっとイラっとしたが、間違えたのだろう。
また報告書作りに没頭した。外出まであと5分。
これを印刷すればセットして終わりや。
と安心した瞬間、また「トゥーツゥー」と内線電話がなった。
「うふふ。」「ガチャンッ」
嫌がらせとしか思えない。
イライラしながらも、なんとか報告書の束をカバンにつめた。
内線電話には、内線元の番号が履歴として残る。
「852」という番号をメモして、帰ってから誰だったのかをつきとめてやろうと思った。
銀座線に乗って外苑前に向かう途中、あの「うふふ。」の声が耳に残っている。
直接、電話機に向かって話しているというよりも、
それから少し話して会話しているような、音だった。
なんとなく水の流れる音がしたのは気のせいか。
客先での報告会も終わりに近づいたころ、会議室の内線が鳴った。
わが社と同じ音だね、と思った。
クライアントで一番若い社員が受話器を取った。
「え?なんですか?」といって、受話器を置いた。
「どうした?」
クライアントの課長が聞くと、
「はあ。”うふふ。”とだけ言って、切られたんですよ。誰でしょうね。」
「またか」
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
人気の記事:

