2月 6, 2010 0

内線で笑う女(ショートショート、極短小説)

By in LITTLE FICTION(極短小説)
 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京オフィスシリーズ
 
 

外出まであと10分と迫りながら、

客先への報告書の修正・印刷に追われていたワタシのデスクは、

封筒とプリントと名刺でひっくり返っていた。

「今日、やっぱり休みます」

という事務員の1本のメールに気付かず、のうのうとランチに行っていたせいだ。

「やっぱり」っていったい何?

まったく、とつぶやいたとき、「トゥーツゥー」と内線電話が鳴った。

「はい、山根です」

「うふふ。」「ガチャンッ」

んだよ全く。誰だよ。ちょっとイラっとしたが、間違えたのだろう。

また報告書作りに没頭した。外出まであと5分。

これを印刷すればセットして終わりや。

と安心した瞬間、また「トゥーツゥー」と内線電話がなった。

「うふふ。」「ガチャンッ」

嫌がらせとしか思えない。

イライラしながらも、なんとか報告書の束をカバンにつめた。

内線電話には、内線元の番号が履歴として残る。

「852」という番号をメモして、帰ってから誰だったのかをつきとめてやろうと思った。

銀座線に乗って外苑前に向かう途中、あの「うふふ。」の声が耳に残っている。

直接、電話機に向かって話しているというよりも、

それから少し話して会話しているような、音だった。

なんとなく水の流れる音がしたのは気のせいか。

客先での報告会も終わりに近づいたころ、会議室の内線が鳴った。

わが社と同じ音だね、と思った。

クライアントで一番若い社員が受話器を取った。

「え?なんですか?」といって、受話器を置いた。

「どうした?」

クライアントの課長が聞くと、

「はあ。”うふふ。”とだけ言って、切られたんですよ。誰でしょうね。」

「またか」

「はい、番号は852でした。」
 
 
 
内線で笑う女(ショートショート、極短小説) 

 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

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