2月 6, 2010 1

カレーパン社長(ショートショート、極短小説)

By in LITTLE FICTION(極短小説)
 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京オフィスシリーズ
 
 
 

「資金繰りタイマー」が赤く点灯し始めた。

もうすぐ赤字になるサインである。

ベンチャー企業を興したイノウエは、広告代理店勤務ののちニュースリリース配信サイトのビジネスを開始した。

登録した企業からネタを提供してもらい、マスコミに配信する。お客さんは無料で利用できる。

イノウエがこのお客さんに広告会社、PR会社、イベント会社、ウェブ制作会社などを売り込み、成約するとこれらの会社からマージンをもらうビジネスモデルである。

お客さんとやりとりをしていく中で、お客さんの懐具合がわかってくる。

かゆいところをつくニッチな提案ができる。成約率は日増しに上がっていた。

問題は、広告会社たちがお金を払ってくれないことがあったり、契約をしぶったり、突然解約するといった、下請法違反な横暴を繰り返したことである。

それでも数社のまともな会社が取引をしてくれたので、なんとかやってきた。

図書館の自習室で知り合った近所のプログラマーの男に作ってもらったのは、日々のキャッシュフローを入力していくと、あと何日で資金が底をつくのか、つまりは潰れるのかをビジュアルで表現してくれる便利ツールだ。

それがついに、赤になった。

今の時代、銀行からの融資は非常に厳しくなっている。

生活資金をとりくずす毎日。

幸い、外注コストは少ないので債務に追われることはないが、サーバーレンタル代が払えなくなったらおしまい だ。

何をけずればいいのか。

1日考えて、やはり食費にすることにした。

これは苦渋の選択だった。

イノウエはアブラギッシュのメタボグルメなのである。

しかし会社を続けたいその一心で決意。

もともと研究熱心なイノウエは、どの食事が最も「自分をだましやすいか」を比較検討した。

その結果、カレーパンを1日1個、カレーパンを3回にわけて食することであった。

カレーパンには油も、辛さも甘さもある。これで1か月暮らした。

幸い、体調を壊すことなく、体重は15キロ減った。

この事実は取引先にも知れ渡った。

この状況に同情したある人が、新年会パーティーに誘ってくれた。

久しぶりにホテルのビュッフェを食べる。

トラファルガー広場に到着したときの猿岩石の2人のように、

無我夢中でサラダ、フライ、ピラフ、パスタを食べる。

カレーを食べて思い出す。カレーパンという素晴らしいフードの味わい。

カレーパン1日1個、同じ店のものは食べないように、いろいろ歩いた。カレーパンを極めてみたくなった。

このパーティーで知り合った何人かの業界関係者は誠実な人ばかりで、いくつかの契約を獲得した。

イノウエの会社はなんとか持ち直し、資金繰りタイマーはしばらく緑色のままである。

ニュースリリース配信サイトは閉めることにした。

カレーパン販売サイトを開設し、日本全国のカレーパンに特化したポータルビジネスが好調だ。

お店、メーカー、専門家などから様々な反応をいただいている。

今、ビジネス書の「あとがき」を書き終えたところである。

本のタイトルは「カレーパン社長の成功する法則 あきらめないこだわりが人をうごかす」だった。
 
 
カレーパン社長(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

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One Response to “カレーパン社長(ショートショート、極短小説)”

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