「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
「資金繰りタイマー」が赤く点灯し始めた。
もうすぐ赤字になるサインである。
ベンチャー企業を興したイノウエは、広告代理店勤務ののちニュースリリース配信サイトのビジネスを開始した。
登録した企業からネタを提供してもらい、マスコミに配信する。お客さんは無料で利用できる。
イノウエがこのお客さんに広告会社、PR会社、イベント会社、ウェブ制作会社などを売り込み、成約するとこれらの会社からマージンをもらうビジネスモデルである。
お客さんとやりとりをしていく中で、お客さんの懐具合がわかってくる。
かゆいところをつくニッチな提案ができる。成約率は日増しに上がっていた。
問題は、広告会社たちがお金を払ってくれないことがあったり、契約をしぶったり、突然解約するといった、下請法違反な横暴を繰り返したことである。
それでも数社のまともな会社が取引をしてくれたので、なんとかやってきた。
図書館の自習室で知り合った近所のプログラマーの男に作ってもらったのは、日々のキャッシュフローを入力していくと、あと何日で資金が底をつくのか、つまりは潰れるのかをビジュアルで表現してくれる便利ツールだ。
それがついに、赤になった。
今の時代、銀行からの融資は非常に厳しくなっている。
生活資金をとりくずす毎日。
幸い、外注コストは少ないので債務に追われることはないが、サーバーレンタル代が払えなくなったらおしまい だ。
何をけずればいいのか。
1日考えて、やはり食費にすることにした。
これは苦渋の選択だった。
イノウエはアブラギッシュのメタボグルメなのである。
しかし会社を続けたいその一心で決意。
もともと研究熱心なイノウエは、どの食事が最も「自分をだましやすいか」を比較検討した。
その結果、カレーパンを1日1個、カレーパンを3回にわけて食することであった。
カレーパンには油も、辛さも甘さもある。これで1か月暮らした。
幸い、体調を壊すことなく、体重は15キロ減った。
この事実は取引先にも知れ渡った。
この状況に同情したある人が、新年会パーティーに誘ってくれた。
久しぶりにホテルのビュッフェを食べる。
トラファルガー広場に到着したときの猿岩石の2人のように、
無我夢中でサラダ、フライ、ピラフ、パスタを食べる。
カレーを食べて思い出す。カレーパンという素晴らしいフードの味わい。
カレーパン1日1個、同じ店のものは食べないように、いろいろ歩いた。カレーパンを極めてみたくなった。
このパーティーで知り合った何人かの業界関係者は誠実な人ばかりで、いくつかの契約を獲得した。
イノウエの会社はなんとか持ち直し、資金繰りタイマーはしばらく緑色のままである。
ニュースリリース配信サイトは閉めることにした。
カレーパン販売サイトを開設し、日本全国のカレーパンに特化したポータルビジネスが好調だ。
お店、メーカー、専門家などから様々な反応をいただいている。
今、ビジネス書の「あとがき」を書き終えたところである。
本のタイトルは「カレーパン社長の成功する法則 あきらめないこだわりが人をうごかす」だった。

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
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