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社会生活という舞台を極短小説に圧縮する
2月 10th
140文字以上への欲求
なんだかTwitterばかりやっていると、もっと文字を書きたい(打ちたい)気分になるのは私だけではないでしょう。まさに今、そんな気分で駄文を書こうとしています。深夜に。妻が起きないように、こそーりとキーボードを打つ。そんな人が世界中に何億人もいると思うとワクワクします。さらに、いつもそうなのですが「マーチダ・コー」という人の文章を読むと、なんだか自分も思念をダウンロードしたくなる。マーチダー・コーとは町田康先生のことでございますが、エッセイの中にこのような表記がでてくるので、ここでも使ってみたわけです。気分が少し滅入ったとき、いやだなぁいやだよういやだいやだといった虫が心の奥で騒いでいるとき、私はしばしば町田ワールドに降りて「アハハハハハ」と楽しくなるまで浸ることにしています。ちょうど今は、ゆとり世代の若者たちとバブル世代のマネージャーたちに挟まれ、なんだかなーなんだかようなんだなんだという日々を送りがちなので、町田ワールドに行きたくなる。まあそんなわけで、読むだけでなく書いてみたくなるのがユーザーってもんです。昔は泉麻人先生のコラムを読むたび、その観察眼とのんびりした文章を真似て、「東京下町街角ぐるり」とかわけのわからないタイトルでコラムみたいなものを書いていました。30代も後半に入り、いろいろ経験してきてピュアではなくなってきますと、町田先生のパンクな文学がちょうどよくなってきます。そうでしょう、あなたも。
するってぇと日常のなんだかなーも面白い素材に
日常生活、とくに満員の「通勤電車」に乗っていますと、そりゃあそりゃあいろんな人間に出会います。それはお互い様で、かの人もあの人もこちらに対していろんな感想を持ちながら、不思議な高速移動時間を共有していきます。年齢を重ねるにつれて、いらっとすることが多くなってきているかもしれません。自分の軸っていうものができてきますから、「こういう人間はいやだ」「こんなにおいのする人間はいやだ」「うるさい人間はいやだ」とかいろいろでてきます。それをお構いなしにすし詰めよりもひどい満員電車、東京でも1・2を争う悪評の電車で通勤していると、ほんっといろんな人がいます。電車だけではなく、駅という舞台にもさまざまな演技者が行き交っています。「なんだそりゃ」を観察しながら、日々暮らしている私です。観察から生まれた表現方法が「極短小説(ショートショート)」です。これは、たまたま書店でみつけた「極短小説 (新潮文庫)」と「SUDDEN FICTION―超短編小説70 (文春文庫)
」「Sudden fiction (2) (文春文庫)
」でした。非常に短い文章量の中に、物語が圧縮されている。短いため、突然始まり突然終わる。この面白さに引き込まれ、自分でも書き始めました。これは挿絵が先で、あとから文章をつけていきます。私の場合、まずイメージが浮かんできて、絵を描きます。絵を描きさえすればストーリー構築は型が決まっているので、簡単に作ることができます。これは俳句のようかもしれません。また、極短小説やショートショート(こちらはあまり知らない)の場合は、「最後はシュールに終了させる」みたいなルールなんかがあるので、まあそんなのをイメージすれば収まります。これは「ちょっと書いてみたいけど、長い小説はむりだわ。」という人にぴったり。まさに私。ショートショートの大御所、星新一先生のことは、実は全く知らなかったので、いま読み始めているところです。ショートショートと、君のいう極短小説の違いは何かね、と老紳士風をきどって尋ねられても、答えられません。FAQサイトにいってみてください。
未来が予知なのか予知が未来なのか
私が書く極短小説は、「実際に見かけた人たちをモチーフに制作するパターン」と、「勝手に想像して創作するパターン」の2つがあります。「実際に見かけた人たちをモチーフに制作するパターン」では、どうみても50代後半の女性が40代後半の男性と満員電車内でいちゃつき、話を聞いているとどうも不倫関係のようで恐ろしかったのを描いた「満員電車がデートスポット」、パン屋で、そのパンが焼きたてかどうかを自分の手の甲を当てて確認している「ありえない」おばばを見て描いた「ヤキタテドットコム」などがあります。「えぇぇえ!?」と驚愕した内容に、自分なりの物語をつけてみようという試みです。「勝手に想像して創作するパターン」では、満員電車でいきなり朗読を始める女子を描いた「車内での朗読はご遠慮ください」、お金のない起業家を描いた「カレーパン社長」などがあります。ちょうど昨日、目の前で洋書を声を出しながら朗読している大学教授風のおじじを見かけ、本当にそんな人がいるのか!私は未来予知をしたのか、と興奮しました。おそらく、こんな人を見て驚いた、こんな人がいたら面白いと想像した時点で、実際にそんな人がいる、それが地球なのでしょうね。ということで、久々にコラム風というかエッセイ風のものを書いて気持ちよく眠ることができそうです。ちなみにいろいろ調べると、コラムというのは新聞や雑誌に出たものを言うらしいので、極私的にやっている分にはエッセイというのかもしれませんが、エッセイというのはさわやかさを伴いそうで、やはりコラムでぶらんと行きたいと思います。こんな駄文でよろしければ、たまに遊びにきてください。そしていつかどこかの雑誌や新聞で、駄文を書いてみたいです。編集者の方どうぞよろしくお願いいたします。引き出しはいろいろ持っています。とその前に、このブログでいっぱい書かないとね。(ハヤテノコウジ)
車内での朗読はご遠慮ください。(ショートショート、極短小説)
2月 6th
マキメ氏の小説を何度も何度も繰り返し読んでいるミツヨは、
自分が読んでいた「鴨川ホルモー」の一文が、音声となって耳から入ってくるのを感じたとき、
ああ、私はついにここまで吸収したのだ。
西のマキメ、東のミツヨと呼ばれるような時代ももうすぐだ。
そりゃ書こう。書けばわかるさ小説だって。
とひとり興奮し、「ふん」と思わず言ってしまい周りを見回した。
それでも耳に入ってくるこの女性の声はなんだろう。
と思ったら、少し前にいる文学系な女性が、鴨川ホルモーを朗読しているのであった。
ああ、この女性は前にも見たことがある。いつも同じ車両に乗っている。駅も同じはずだ。
「京大青竜会に伝わる伝統の舞である。心配はいらない。非常に単純な舞である」
と感情をこめて読み上げる女性に、周りの人は迷惑げで怒り心頭な雰囲気である。
決して大声をあげているわけではなく、ささやくような、暗記しようとでもしているような、そんな声を出し方だ。
ミツヨは、きっとこの女性もマキメの大ファンなのであろう。
きっと「鴨川ホルモー」の映画も見たのであろう。
「ゲロンチョリ」「デ・キューレン」などのオニ語を言えるのであろう。
という強いシンパシーを感じてきた。
あぶらぎっしゅなオヤジサンが、我慢しきれずに言った。
「あんた!うるさいよ!さっきから。朗読お断り!」
池袋駅で、驚くほどのすばやさで下車していった。まるでオニのようだった。
各路線で同様の騒動が巻き起こり、迷惑行為としてJRでも認定されたのか、
「車内での朗読はご遠慮ください」
というアナウンスが流れるまでとなった。
ミツヨは、新人賞を目指して「朗読少女」という原稿を書いている。
小説部門からノンフィクション部門に転向して。
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
トイレはどこじゃ(ショートショート、極短小説)
2月 6th
寺内ジンベエ、77歳。孫のいる大船まで向かう途中。
自宅のある赤羽から乗り込んで池袋を過ぎる。
早く会いたい一心で、9時前に家を出た。
ラッシュというのが終わっている時間帯だと思ったが、
とんでもなかった。
まだまだひどい混雑である。
だいたい電車を降りる人がいるかと思えば、また乗ってくるのである。
車内の中ほどにも人がたくさん立っているので座るタイミングがわからない。
赤羽をほとんど出たことがないジンベエだったが、
乗り換える必要がないので大船には行ける。
それでもいつもは昼ごろ乗車するので、座ってのんびりできるのであった。
「混雑してまいりましたので冷房を強めさせていただきます」
という女性車掌のアナウンスを聞いたとたん、なんだかトイレに行きたくなった。
小はもちろんのこと大もちょっと感じる大小な感じだ、あは。
と一人で笑ってみようかと思ったとき、電車が揺れて
すこしちびった。
ちびる程度か。大丈夫かなと思ったが、路線図を見上げるとまだまだ先は遠い。
やはり行っておこうとトイレを探す。
7号車にそれはない。
「すみません、トイレがある車両ってどこかな」
と隣のにいさんに聞いてみたが、ヘッドフォンで聞こえないようだ。
「あの」と前のお姉さんに聞こうと思ったが、あまりにもゲームに熱中しているのでこわくなってやめた。
トイレってのははじにあるに決まっている、ととにかくはじの車両に行くことにした。
「すみません」といいながら、モジモジと人をかきわける。
8号車は弱冷車両なのでよかったが、
9号車、10号車は冷えすぎで、さらにトイレはどこじゃ!
ジンベエ、10号車にはまいった。
部活の試合かなんかあるのか、ボールバックや大きなバックを床に置いた高校生がわんさかいて、
「泥沼を歩いているようだった」と、あとで回想している。
11号車にやっとたどりついたジンベエ、トイレに入る直前に少し、ちびるもなんとか安堵。
大船駅のホームには娘と孫がいた。
この話をすると、「トイレは5号車、6号車にあったのよ」と娘。冒険は終わったのだ。

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
あーいーうーえーおーな女子(ショートショート、極短小説)
2月 6th
満員電車に飛び乗ったんですよお。
私はなんとかバックを中に入れて、ひと安心していたら、ちょっと太めの若い人が乗ってきて、あーと思って。
案の定、バックのストラップがはさまったみたいで、親切な他の乗客が手伝って、なんとか引き抜いて。
この人、過剰に御礼するもんだから、おじきした頭がぶつかって。あーと思って。
会社に着いたら課長に「ちょっとちょっと」と呼ばれたのではいと言って近寄ると、
「急なんだけどお客さんだから、お茶4つね。それとコピー4部ね」と頼まれて、いーと思って。
ムカムカしたけど、何とか準備して自席で珈琲入れようとしたら、フィルターが切れていて、いーと思って。
昼休み、コンビニのパンと家から持ってきた玄米おにぎりを食べながらVeryでもじっくり読もうかなと休憩室に行ったら、おしゃべりな経理部の人につかまって、うーと思って。
昼休み中、彼氏とのけんか話につきあわされて、うーと思って。
15時から部会だったので、だらだら会議室にみんなで入ったら、偉い人たち、マジな顔。
不景気対策として組織改革があるって、えーと思って。私どうするのかなーと本部長の話を聞いていたら、
部署がなくなるから次の3つから選べって。えーと思って。
(1)関西支社で人が辞めるから、そこに補充として。えーと思って。
(2)中国の子会社に出向中の社員が戻ってくるから、そのかわりとして。えーと思って。
(3)クライアントへの出向社員が産休に入るから、そのかわりとして。えーと思って。
1週間後に希望を取るって。この部署、4人だから1人余るじゃん。えーと思って。
私、なんとなく(3)がいいんじゃないかなと思って仕事していたら、関西支社の社員を何人か見つけて、
割と草食系のイケメンじゃん、おーと思って。中国の子会社の人が来日していたので話したら、グルメを
週末は楽しめるみたいで、おーと思って。
課長に呼ばれた。プラン(4)を聞いて、あー、いー、うー、えー、おー。

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
エレベーター営業(ショートショート、極短小説)
2月 6th
今がチャンスだと思った。これがチャンスだと思った。
満員のエレベーターの中でポスターをかかげながら歌ってみよう。歌うしかない。
エレベーターが止まるごとにサビの部分を歌うのだ。
9、10、15、16、20、と点灯している。今は5階。よし。
「みなとの~か・も・め・に~なぐさぁめぇらぁぁれぇ~て~」
大きな声を出したはずだったのだが、「すみません」といってオレを押しのけた
大柄の女性が9階で降りた。
どうやら歌は歌えていないようだ。だめだ、これじゃあだめだ。
あ、あっというまに10階。よし、ここだ。
「みなとの~か・も・め・に~なぐさぁめぇらぁぁれぇ~て~」
なぜ歌えないのだろう。
声を出しているつもりだったが、やはりこの混雑がよくないのだろう。
むしろ、人が少なくなった方がいいのかもしれない。
レコード会社に入り、研修を終えて最初の担当が、この売り出し中の演歌歌手。
顔はいまいちだが、ボディと性格はいい。きっと売れるはずだ。この人のためにも!
コンサルティング会社の友人が、「エレベーター・プレゼン」というのがあると言っていた。
常に忙しい社長などに、エレベーターの中の数分で「報告と提案と承認を取る」という
すごいテクニック。「いいんじゃない、それで」と言われたら成功だという。
それだと思った。それがチャンスだと思った。
エレベーターの中で営業すれば、注目度が高いはずなのだ。
なるべく中高年が多そうなビルを選び、ゲリラ的にやってみようと思った。
回想しているのもつかのま、あっという間に10階を過ぎたことに気付く。
20階に迫ろうとしていた。
乗客は5人。
今しかない。腹に力をいれた。
「みなとの~か・も・め・に~なぐさぁめぇらぁぁれぇ~て~」「こよいの・舟は・ひとりぁ~きぃぃり」
「あ・あ~夢岬~」
「ウングレコードから売り出し中の演歌歌手・・・」
「20カイデゴザイマス」
やさしげな女性の声のあと、ドアが開くと同時に乗客が一気に降りた。
結局、歌えなかった。誰もいないエレベーターで歌っていた。
その様子を、警備室の警備員が見ていた。
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
つき雲(ショートショート、極短小説)
2月 6th
「やっぱさ、サカタつれてくるんじゃなかったね」
言いやがった。今回も言いやがった。
ツダはいつもこの調子でオレをコケにする。
入社前の新入社員を連れて、早咲きの桜をおかずに一杯やろうというツダのアイデアに若手社員が賛同。
4月入社の2名を連れ立って千鳥ヶ淵に着いたとたん、雨が降り出した。
局地的ともいえるこの雨に、一同はためいきをつき、せっかく買出しをしたのだからと会社の会議室での宴会と なった。
ここでもツダは「サカタっていいやつではあるのだけれど、いつも雨なわけよ。新入社員の2人もサカタ先輩とは アウトドアとか外でのイベントにいかないほうがいいよ」とのたまう。
なんてやつだ。ドツキたい。ドツキたいが、まあツダの言うとおりなのである。
4月に入り、新人を連れてOJTをこなしているときも、会社を出てから数分後に雨が降り出した。
新人には花見の時のツダの発言が思い出され、やっぱりサカタさんは雨男なのですね、と報告している。
そんな報告はいらないのである。
私は子供のころから雨男だと言われた。
しかしながらそれは正確な表現ではない。
自分が喜んで行くイベントでは決して雨は降らないのである。むしろ快晴になる。晴れ男に近い。
「なんとなくいやだな」「いきたくないけどね」と思う会合などで、雲をみあげたりすると、雨になった。
そんな話を、取引先で仲良くなった女性に話したら
「ああサカタさん、それ、雲と心がつながるのですよ」
と驚くようなことを言った。
占いや文化人類学などに詳しいというので聞いてみると、自然と心を通わせるシャーマン的な素質があるのでは、ということだった。
にわかに信じられない話だ。
そう思って空を見上げると、雲が集まってきた。
まるで話しかけられるのを待っているかのように。
夏休みは、雨不足が続いている国に行ってみようかと思った。
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
カレーパン社長(ショートショート、極短小説)
2月 6th
「資金繰りタイマー」が赤く点灯し始めた。
もうすぐ赤字になるサインである。
ベンチャー企業を興したイノウエは、広告代理店勤務ののちニュースリリース配信サイトのビジネスを開始した。
登録した企業からネタを提供してもらい、マスコミに配信する。お客さんは無料で利用できる。
イノウエがこのお客さんに広告会社、PR会社、イベント会社、ウェブ制作会社などを売り込み、成約するとこれらの会社からマージンをもらうビジネスモデルである。
お客さんとやりとりをしていく中で、お客さんの懐具合がわかってくる。
かゆいところをつくニッチな提案ができる。成約率は日増しに上がっていた。
問題は、広告会社たちがお金を払ってくれないことがあったり、契約をしぶったり、突然解約するといった、下請法違反な横暴を繰り返したことである。
それでも数社のまともな会社が取引をしてくれたので、なんとかやってきた。
図書館の自習室で知り合った近所のプログラマーの男に作ってもらったのは、日々のキャッシュフローを入力していくと、あと何日で資金が底をつくのか、つまりは潰れるのかをビジュアルで表現してくれる便利ツールだ。
それがついに、赤になった。
今の時代、銀行からの融資は非常に厳しくなっている。
生活資金をとりくずす毎日。
幸い、外注コストは少ないので債務に追われることはないが、サーバーレンタル代が払えなくなったらおしまい だ。
何をけずればいいのか。
1日考えて、やはり食費にすることにした。
これは苦渋の選択だった。
イノウエはアブラギッシュのメタボグルメなのである。
しかし会社を続けたいその一心で決意。
もともと研究熱心なイノウエは、どの食事が最も「自分をだましやすいか」を比較検討した。
その結果、カレーパンを1日1個、カレーパンを3回にわけて食することであった。
カレーパンには油も、辛さも甘さもある。これで1か月暮らした。
幸い、体調を壊すことなく、体重は15キロ減った。
この事実は取引先にも知れ渡った。
この状況に同情したある人が、新年会パーティーに誘ってくれた。
久しぶりにホテルのビュッフェを食べる。
トラファルガー広場に到着したときの猿岩石の2人のように、
無我夢中でサラダ、フライ、ピラフ、パスタを食べる。
カレーを食べて思い出す。カレーパンという素晴らしいフードの味わい。
カレーパン1日1個、同じ店のものは食べないように、いろいろ歩いた。カレーパンを極めてみたくなった。
このパーティーで知り合った何人かの業界関係者は誠実な人ばかりで、いくつかの契約を獲得した。
イノウエの会社はなんとか持ち直し、資金繰りタイマーはしばらく緑色のままである。
ニュースリリース配信サイトは閉めることにした。
カレーパン販売サイトを開設し、日本全国のカレーパンに特化したポータルビジネスが好調だ。
お店、メーカー、専門家などから様々な反応をいただいている。
今、ビジネス書の「あとがき」を書き終えたところである。
本のタイトルは「カレーパン社長の成功する法則 あきらめないこだわりが人をうごかす」だった。

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
内線で笑う女(ショートショート、極短小説)
2月 6th
外出まであと10分と迫りながら、
客先への報告書の修正・印刷に追われていたワタシのデスクは、
封筒とプリントと名刺でひっくり返っていた。
「今日、やっぱり休みます」
という事務員の1本のメールに気付かず、のうのうとランチに行っていたせいだ。
「やっぱり」っていったい何?
まったく、とつぶやいたとき、「トゥーツゥー」と内線電話が鳴った。
「はい、山根です」
「うふふ。」「ガチャンッ」
んだよ全く。誰だよ。ちょっとイラっとしたが、間違えたのだろう。
また報告書作りに没頭した。外出まであと5分。
これを印刷すればセットして終わりや。
と安心した瞬間、また「トゥーツゥー」と内線電話がなった。
「うふふ。」「ガチャンッ」
嫌がらせとしか思えない。
イライラしながらも、なんとか報告書の束をカバンにつめた。
内線電話には、内線元の番号が履歴として残る。
「852」という番号をメモして、帰ってから誰だったのかをつきとめてやろうと思った。
銀座線に乗って外苑前に向かう途中、あの「うふふ。」の声が耳に残っている。
直接、電話機に向かって話しているというよりも、
それから少し話して会話しているような、音だった。
なんとなく水の流れる音がしたのは気のせいか。
客先での報告会も終わりに近づいたころ、会議室の内線が鳴った。
わが社と同じ音だね、と思った。
クライアントで一番若い社員が受話器を取った。
「え?なんですか?」といって、受話器を置いた。
「どうした?」
クライアントの課長が聞くと、
「はあ。”うふふ。”とだけ言って、切られたんですよ。誰でしょうね。」
「またか」
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
SOSの行方(ショートショート、極短小説)
2月 6th
私をチラリと見るのはなぜだ。
何もできやしないのに。
さきほどからやっと事情がつかめてきた。
あなたは彼氏から逃げたいのだね。
そこでこちらにSOSを出しているのだろう。
普通じゃないよ、そのドツキ具合。
ここは通勤電車なのだよ。でもなぜ笑顔なの?
新宿から混んできたね。これはチャンス。
どさくさにまぎれて離れてみたらどう。
そこのおじさんの脇から、するりとぬけてごらん。
そう、その調子。
彼氏がちょっと人のスポーツ新聞に気をとられているスキに。
今だ!
ああなんで動くの、おちびさん。
彼女が抜ける隙間がなくなったじゃない。
さて、どうしよう。
あの彼氏は間違いなく彼女をドツイている。
世に言うあれだ、なんだっけ、アルファベット2文字。
えーとUV、BV,OV、VD、あDVか。DVだ。
半端じゃないよあれ。
おなかをグーでやってるじゃん。
で、なんであなたは笑っているの?なんで2人とも笑顔なの?
で、こっち見るときだけSOS顔するのやめてよ。
よーし、こうなったらやるしかない。
「あの2人、へんじゃないすか。なんかさっきからボコボコボコボコやってるんですけど、半端じゃないんですよね。渋谷駅からずっとなんですよ。きっとDVなカップルなんですよ。社内迷惑行為とかで、訴えられないですかね。え?私ですか?私は何もできないですよ、とんでもないドツクなんて」
いろいろ迷走している間に、電車は池袋についた。
大勢の乗客が降り、それより多い帰宅の人が乗ってくる。
あ、あのカップルも降りるようだ。
だから彼氏、強引なんだって。
よし、あの係員に、と「すみません」と声をかける。
この彼女、降りながら「ずっとキモイ人がこっちみてた」と係員へ。
彼氏「なんだとお」。係員「あなた、ちょっと降りて」
あのカップルのドツキはプレイだったようだ。
みうらじゅんが言っていた。
なんでも「プレイ」にすればできるって。
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)
私はガンマン(ショートショート、極短小説)
2月 6th
婚活中。
婚活っていう言葉、大好き。
なんかポジティブになれるじゃない?
就活と同じように出会いサービスにエントリーして、
就活と同じように集団面接して、
就活と同じようにトンカツでげんかついで、
同じように最終面接。
でも最終までいくのだけれど、そこで落ちちゃうのよね。
いいかんじになるのだけれど、ダメ。こっちがわるいの。
「もっといい就職先、じゃなかった、婚活先があるんじゃないかなー」
と思って、萎えちゃうの。
モギさん、あの脳なんたらのチリチリのモギさんが、
「出会いは突然の方がいいよサンプリングとしては」
といつものアハっとしたチリチリなことを言っていたので、
そうなのかなーやっぱということで考えを変えようとして、
満員電車の乗車位置を変えてみた。
そうしたら、いた!
私好み。
それで、人差し指をガンみたいに出して、「えい」と念じてみたの。
その私好みに向けて。
ガンマンみたいに。
つり革をつかみながら、うとうとしていた私好みは、
突然「はっ」として周りを見回し、突然呆然と。
私とやっと目が合って、「あ、どうも」なんつって下車。
「さっき、おかしかったですよ、うふふ」とか言っちゃって、
お茶してメアドもらっちゃった。
次の日。
その1週間後と同じことをして、私好みを2人ゲット。
今、婚活先3つがいきなり最終面接。
しかも私が最終面接官なわけで、社長みたいになっちゃった。うふふ。
(絵:文 ©ハヤテノコウジ)





