抜けない指(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京電車シリーズ
 
 
 

高田馬場駅(たかだのばば)を過ぎたころ、

右手人差し指が左の鼻の穴から抜けなくなった。

ちょっと鼻の穴がかゆかったのであって、決してホジったのではない。

それを隠すため左手に口をあてている。

つまり、両手が口にあるという状態である。

金曜日の23時15分。

車内は混みあっている。

鼻の穴を大きくしてみる。

指を下に引いてみる。いい感じだ。

もう少し。ほらっ。

目白駅(めじろえき)を過ぎたころ、山手線、急加速。

その影響で電車が揺れ、また奥に。

両手を使えない自分は揺れまくり、周囲の人をいらつかせている。

自分の鼻の穴は極端に小さく、指が太い。

よって鼻などほじれず普段は綿棒を使っているという不思議さ。

この状況を一度、客観的に整理してみようと思った。

俯瞰、というやつである。

意識を集中し、上に浮かんで見る。

すると、山手線の混雑する車内で、両手で口をおさえる怪しげな男が見えた。

なんともみっともない男なのだろうか。

俺か。

よく見ると顔がでかく、頭がナスのようだ。

自分自身に猛烈に腹が立ってきた。

いったいなぜ今まで鼻をどんどんほじり、穴を大きくする努力をおこたっていたのかと。

鼻をほじる機会はあったはずなのに。

くやしい。

クヤシイです。

でも負けたくない私は、巣鴨駅(すがもえき)のホームに降り立ち、

おもいっきり、右手人差し指に力を入れた。

「ビュアン」

そのとき、左手親指が右の鼻の穴へ合体。

仕事帰りのお姉さんたちが驚く中、

私は右手で隠そうとした。

その格好はまるで吐くのを我慢する飲みすぎたオッサンそのままで、

すっかりホームに溶け込んだ。

最終電車が出て行った。
 
 
抜けない指(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

フリスク食べてミサイル(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京電車シリーズ
 
 
 

もう爆発寸前だった。

さっき口の中に入れたフリスク、

電車が揺れたせいで30ツブくらい入ったのだけれど、

大丈夫だと思っていたのだけれど、

やはり影響があった。

鼻の粘膜にそいつらはこびりついたのであろうか。

鼻の穴全体がムズムズとし、いつクシャミがでてもおかしくない状況にある。

問題は、口を抑える手がふさがれているということである。

手を出せばいいのだが、最悪なことに、回りは女性。

少しでも動けばチカン扱いされる生き地獄。

あの世行きはごめんだ。

そうすると影響が少なそうな方向に顔を向けるしかないのだが、

四面、人に囲まれ、ムリ。四面不可。

あはは。

わらっている場合ではない。

あとは頭上か。

頭上か?

口の中のふリスク、これ以上かんだらすぐに爆発しそうなので、

とかさず、口に含んでいる状態。

どうすりゃいいのさと途方に暮れるうち、暑さのせいで気が遠くなった。

鮮明に覚えているのは、

私が巨大化し、

電車の屋根をつきやぶり、

体長150メートルになってからフリスクを飛ばした凶器と化し、

街の人々が逃げ惑った、ということである。

ウルトラマンやゴジラ、

最近でいえばクローバーフィールドのモンスターのように。

口の中のフリスクをすべて発射すると、

頭上から何者かによってねじ伏せられた。

私は車内で気を失い、新宿駅でタンカに乗ったそうだ。
 
 
フリスク食べてミサイル(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

満員電車がデートスポット(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京電車シリーズ
 
 
 
「ふふふ。今日のヒラヌマ部長のあわてっぷりったらウケたわけ」

「あはは。キミの言い方が怖いから、こっちはヒヤヒヤだったよ」

「えへへ。あれは社長としての演技だもん。ほんとは怖くないもん」

「うふふ。わかっているよ」

「おおお。混んできたわね」

「こうなったら、さらにぎゅーとしちゃうぞ」

「えーすごーい。こんなに近い」

「あ」

「どうしたの」

「携帯がぶるってる」

「とらないの。奥さんからでは」

「とれないさ」

「そうね、あはは」

「もっとくっついちゃおう」

「やーんいたーい」

(次は上野、上野です)

「あ、おりなきゃ」

「じゃ、また明日ね」

「じゃあね」

50代のオンナ社長と40代のヒラ社員の愛の時間を目撃した山田山は、

今日の夕食はふんぱつしてギョウザをつけてやる、と思うのであった。
 
 
満員電車がデートスポット(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

パンパンカフェ(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京食堂シリーズ
 
 
 

元同僚との会話が聞き取りづらく、何度も「えっ?」とやるのに疲れてきた。

繁華街の入り口で待ち合わせをした時から、少しいやな予感はしていたのだが、

やはり普通ではなかった。

ビールが売りだというその店自体はそれなりにおしゃれな雰囲気で、

この店を予約した元同僚も、

グルメサイトでの写真を見て「ここなら落ち着いて話ができそうだ」ということで決めたらしい。

しかしながら、3度目の転職を相談される身としては、この場所はふさわしくない、と言わざるをえない。

確かにビールはうまいのだが。

ドイツのだし。

すっかり夏らしくなった夕刻より、決して品がいいとは言えない街並みには、

夜の世界が顔をのぞかせていた。

まあこちらも郷に入れば郷に従えということで、ドイツビールをあおりにあおった。

我々と同様に初来店だったと思われるグループも、最初はいぶかしげだったが、

次第に声のボリュームがあがり、やはり店と調和し始めた。

元同僚がトイレに行っている間、この店の常連と思われる人たちを観察してみた。

共通点は、あたりまえだが皆楽しげ。愚痴ったり、静かにしている人はいないようだ。

そして、笑ったあとに、聞いている人が皆「パンパンッ」と手をたたいていることに気付いた。

あそこもこっちも、ここも。

我々も次第に楽しくなり、聞き手が笑いながらパンパンするようになってきた。

パンパンが店中に響き、「パンパン=楽しい話」が脳内に広がる。

よって店全体が楽しいパンパンカフェが楽しいと認識されている。

パンパンカフェとは、このような仕組みでございました。
 
 
パンパンカフェ(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

返品したいのだけど(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 

「あ、お客様。いかがいたしました?」

またやってしまった。ヒロコは思った。

「返却お願いします」と頭で思っても、

「返品お願いします」となってしまう。

返却という言葉が書けても、返却と言えない。

返却返品症候群なのである。

レンタルビデオショップでも返品と言ってしまうので、最近ではだまってむっつりしているか「お願いします」だけ言うかのパターンを取っている。

レンタルビデオショップならば、ケースだけ持っていけば貸し出し、ショップのレンタルバックならば返却という表現ができるので問題ないが、図書館ではこまってしまうのである。

丁寧だからである。

本を返却するのに「お願いします」とカウンターに言った場合、

「貸し出しですか?返却しますか?」と聞かれ

「返品です」と答えてしまう。

「返品、でございますね。少々お待ちください」

と言った中年女性は、事務室から責任者を連れてきた。

「どうなさいました」

「いえいえ、なんでもありません。借りた本を返品に来ただけです」

「返品でございますか。こちらでお預かりしてよろしいですか」

「もちろんです」

その日はそれで帰ってきた。

翌日、その責任者から自宅に電話があり、

「本を詳しくチェックしましたが、汚れた箇所、切れたページなどはございませんでした。よろしいでしょうか」

と告げた。

返品というのを、「本がきたなくなっているからよみたくないよ」と捉えたらしい。

1週間後、注文したスウェーデン製の扇風機が届いた。

強弱のを調整するツマミが壊れているので、

サポートセンターに電話した。

「返却したいのだけど」

「返却、でございますか。お客様、モニター体験は当社ではやっておりません」

返品、が言えない。
 
 
返品したいのだけど(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

私のゴミ(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 
すでに10度目のリターンである。

ルールを守り当日の朝に捨てるようにしたのにもかかわらず、1袋だけ、いつも戻ってくる。

しかもご丁寧にラベルまで貼ってある。

ラベルには住所、氏名、電話番号、性別、年齢まで書かれている。

個人情報の漏洩もはなはだしい。

これはあきらかに嫌がらせであり、ストーキングであろう。

確かに私は、嫌われやすい偏屈魔王ではある。
されど、マンションに住んで6年。この街に知り合いはいない。

一度だけ、旅行のために前日の夜にゴミ袋を捨てたことはある。やむをえないのです、ごめんなさいと念じながら。

これが原因だったのか、翌週より1袋だけ部屋のドアの前に戻ってくるようになった。

ご丁寧にラベルが貼ってある。

大家さんからの指導か、とも思い、確認してみたところ「私じゃないわよ」と怒られた。

2袋、3袋だしても、戻ってくるのは1袋。これはいったい何のメッセージなのだろうか。

もはや腹が立つというより、謎の解明に近い気持ちだった。

ゴミ袋の中身を物色している形跡は見当たらない。

試しに、中身を明確に分けてみたり、燃えるゴミの日、燃えないゴミの日に規則性を見出してみたり、袋の中に折り紙を入れてどの色を持っていくのかを調べてみたりと、いろいろなことをやってみた。

私はなんと積極的な男だろうかと、意外な自分に驚いた。

わかったのは、月曜日の燃えるゴミの日の「1袋リターン」の確率が高いということと、ラベルはインクジェットプリンターで作成したものである、ということだけだ。

では、ゴミを捨てなかったらどうなるのだろうか。

究極の(自分の中で)実験を1ヶ月やってみることにした。

自宅で食事をしない。DMなどはシュレッダーにかけて袋にいれ、部屋に保管。とりあえずこれだけでもゴミは減った。

燃えないゴミの日、資源ゴミの日はこの迷惑行為が行われないので、捨てることができた。

この実験を展開して1ヶ月。「1袋リターン」現象は発生しなくなった。

正直、自分でも飽きてきたので、普通な生活をしてやりたくなった。

紙類のゴミがいいかげん増えてきたので、まとめて15袋を燃えるゴミの日に捨てた。

まあ1袋くらい戻ってきてもいいし、もう「1袋リターン」現象は発生しないかもしれないのだから。

月曜日、家に帰ると、15袋すべてにラベルが貼られ、部屋の前に。

大家さんの部屋のドアが静かに空いた。
 
 
私のゴミ(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

ヤキタテドットコム(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 

私は驚愕のシーンを目撃した。

18時、定刻どおりに会社を出て、気分よく向かったパン屋だったのに。

閉店が近い店内には、仕事を終えて帰路につく女性が多いが、この事実を知るのは私だけのようだ。

身長155センチくらい、髪の毛は腰に届くほどに長い。体はふくよかで顔はまあ美人の方に入るだろう。

隣には、小学校高学年くらいの女の子が立っている。母親(だろうか)に比べ、細い。母親が手の甲を使ってブレッド、バゲットをさわりまくっている。なにかつぶやいている。それを娘(だろうか)が書き取ってるようだ。

「手の甲で触れば、きたなくないわ、迷惑かけないわ、あたたかいパンをたべたいのだもの」

とでも言いたいのだろうか。私はビジネスマンのひとりとして非常なる憤りを覚えた。

こいつが触れた商品は、衛生上の問題が発生し、それがロスになり、損失につながるのである。

この「企業クライシス」を店員に伝えようと決意した。

レジには長い列、全員がお客さんの対応に回っているようで、なかなか話しかけられない。

仕方がないので、とりあえず今日は観察し、事実を把握し、後日メールで連絡してみようと思った。

娘はいったい何をメモしているのだろうか。

私はパンを選びながら(というか選ぶふりをして)この親子(だろうか)に近づいてみた。

なにげなくメモを見ようと試みるも、変質者扱いされるのが怖いのであきらめた。

(まちがいなく、今、監視カメラに写る自分の方もあやしいのだが)

ということは、おかしい。この事実を誰かがみているのではないか。

なぜ、この手の甲をパンにつけまくっている事実を問題視しないのだろうか。とまたひとり憤慨した。

妻にメールした帰宅時間が迫っていたので、とりあえずレジに並ぶことにした。

隣のレジの列に、あの2人が。母親の右手の甲になにか、青い物体が付いている。

よくみると、それは液晶画面つきで、「0000℃」という表示があった。あれは何だ!

入浴中も、この出来事が頭から離れない。

いつものように、ノートPCを立ち上げてネットにつなぐ。

パン好きの私は、グーグルアラートに「パン、ブレッド、バゲット、ベーグル」などと登録している。

入ってきたアラートメールに「ヤキタテドットコム」とあり、「池袋の●●ベーカリー、18時30分、ヤキタテより時間経過の模様」と書いてある。

クリックして開いたサイト、ブラウザの右横にあの母親の写真!
 
 
 

 ヤキタテドットコム(ショートショート、極短小説)
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

口の中のムシ(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 

夏の夕方。

自転車で半額の総菜を狙ってスーパーへ急いでいたトモコは、

たちこぎしてみたところ口の中に虫が入った。

「うわぁ!入った。うへぇ」

止まって吐き出そうかと思ったが、今日は総菜を2人分ゲットしなければならず、さらに給料日前でぴーぴーなので、閉店間際のスーパーが頼りだった。

だいたい、虫は口の中に入れば死ぬはずなのに、口の中でまだ飛んでいるような気がするのである。

下を上下左右に動かし、ときどき咳をしてみたり口をあけてみたりするが、異物感は消えないし移動し続けている。

どうにも不快なままスーパーの食品コーナーへかけこむ。

あった。

ポテトサラダとあじフライといなりずし。上出来。

あの人の分も揃えて500円。完璧。

ひと安心して店を出た。

この間買ったお皿に、きれいに並べて出そう、なんて考えているのもつかのま、また虫が動き出した。もういいかげんにしろ、とひとり切れそうになりながら、思い切ってやってみた。

まわりを見まわしてから

「か~っぺっ」

やっと出たようだ。しつこい虫だった。

振り返ると彼がいた。
 
 
口の中のムシ(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

アラフォーピンク(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 

気がつけば部屋中がピンクになっていた。

ぬいぐるみがあるわけではなく、少女趣味なのではなく、風水の影響でもない。

普通に暮らすための数々の備品が、ピンクになっていた。

服や道具はもちろん、食べ物やポータブルゲーム機までがピンク。

会社の部下たちは、悪趣味だとか気持ち悪いとか言っているようだが、42歳になってピンクのすばらしさにはまってしまうとは。

政治の世界で「チルドレン」が流行したころ、私と同じようにピンク色のスーツをまとう議員がいたので、少し応援していた。

定時に会社を出て、ピンク色のコートをはおり、特別につくらせたピンク色のIDカードをタイムカードに通す。

1時間の通勤時間の楽しみは、ピンクのポータブルゲーム機で楽しむ脳トレ。ゲームの画面ももっとピンクを使えばいいのに。

すべては、偶然入った銀座のセレクトショップでの「ピンク、お似合いですね」から始まった。
 
 
アラフォーピンク(ショートショート、極短小説)
 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

スモークサークル(ショートショート、極短小説)

 

「極短小説」にインスパイヤされたのでここにショートショートなノベルを記します。
 

東京街角シリーズ
 
 
 

駅のホームから煙が消えた。

酒に酔って自分を見失っているオジヤンは、喫煙所がかつてあった場所でまだ吸っている。と思ったら、パイポだった。

駅を出たその先に、煙の輪が広がっている。

「歩行喫煙禁止区域です」「迷惑を考えましょう」といった立て看板の下で、低めの灰皿が立っている。

まわりには人。20代の、30代の、40代の、50代の、60代の男女が、均等に間隔をあけながら味わっていた。

吸いながら遠くを見つめる人々。

その様子を会社のリフレッシュルームから眺めたヨーコは、昨年の夏休みに訪れた英国の「ストーンサークル」を思い出した。古代、誰が立てたのかミステリーが残る遺跡と、現代、なぜニコチンを注入し続けるのかミステリーが残る喫煙者、2つがシンクロした。

人と石の立ちつくす様が、その影のでき具体が似ていた。

20年後、歴史の教科書、現代史あたりのページに、この様子が紹介されていた。写真のキャプションには「スモークサークルを組む人々」とあった。
 
 
 スモークサークル(ショートショート、極短小説)

 
 

(絵:文 ©ハヤテノコウジ)

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