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その路線は遅延線と呼ばれていた。
時刻表どおりに運行する日本の電車の中で、二日に一度、いや、連日遅延することもある。
「このさき、停車することが予想されます。お手数ですが次でお乗り替えください」
この一言がスイッチになり、乗客は下車。この影響で他の路線まで混雑する。
いたるところで詫び電話を入れている。
余計な交通費、社内や取引先の評判低下、通勤ストレス、住民は疲弊していた。
遅延証明書のために、行列ができる。
住民のひとりがインターネットコミュニティ「Q」を立ち上げ、遅延要因を探るプロジェクトを開始した。
アンケートや会合を通じ、奇妙な男たちの目撃談が相次いだ。彼らはニヤツイテいた。
前日このサイトを見た坂田は、9月の朝、ニヤツイタ男を発見、恵比寿駅から後をつけた。
男はガーデンプレイス方面の「動く歩道」に向かう。
ときどき人にぶつかりながら進むと、突然、振り返る。坂田と目が合う。駆け出した。(つづく)
極短小説「東京遅延線 その1:Qの設立」(2007/09/22)
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「キャッ」
「ギャ」
「えっ」
「ちょっ、ちょっと」
湿度が高く日差しが強い8月下旬。
週末のためひどく賑わう商店街に、女性たちの悲鳴が響いた。
「な、なに、それ」
孫を連れた中年女性が、女性たちの足元を見てつぶやく。
黄色い複数の線が、女性たちの足元のあちこちにひかれていた。
「だれだ、こんなことするの」
甘味処のおやじさんが、交番に走っていく。
坂田は、その騒ぎを見た。
被害者の女性たちに共通点があることに気づく。
ブラウン色に染めた髪の毛は長く、長身、顔が丸い、鼻が大きい。似ているのだ。
「足元で、何かがとても早く動いていた」
被害者のひとりが駆けつけた警官に説明していた。
「おい、つかまえたぞ」
魚屋の2代目が、暴れる幼児を抑えていた。
白いエプロンが黄色に染まる。
男の子は、汗まみれの右手に黄色いチョークを握り締めていた。
「なんでこんなことしたの」
「だって、お母ちゃんに、にてたから」
黄色は『幸せの色』、のはずだった。
極短小説「チョーク小僧、あらわる」(2007/09/18)
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こんなに暑い夏ははじめてだった。
昼食帰りの社員は皆、後ろ髪が濡れる。営業マンの顔からは汗がしたたりおちる。
六本木通り沿いのビルで、パソコンのヘルプデスクとして働く坂田も限界に達していた。
席を二人分とるほどの伊矢見部長は、限界まで冷房を下げている。
「お、誰かとめやがったな」
体格のわりに甲高い声で、バイク便の青年が振り向いた。
エアコンの真下に席がある細野は震え、巻いたブランケットも意味がない。坂田は毎日エア コン操作に励む。せめて少しの時間でもいいから、細野さんが快適に過ごせたら、それだけだった。
「おい。エアコン操作が面倒だ、操作禁止と紙でも貼れよ。オレあちいんだよ」
伊矢見部長が、溶けたアイスクリームのついた指を舐めながら言った。
衝動に駆られながらも、必死に体を抑えていた坂田は、細野をちらりとみた。 机を開けた。ハンマーがあった。ドライバーがあった。両方を手にとり、席を立った。椅子が倒れるほどに。
極短小説「エアコン戦争勃発」(2007/09/01)
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